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感情に生きられない。 謙虚に生きられない。 論理に生きられない。
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出版元:二葉社
頁数:156p
価格:¥2700


≪序文≫

ライター/ローレンシア大塚


『重力の三世紀』は2010年にPS3で発売されたカルト的名作“Dooms and Dungeons”こと『宿命宮』の続編である。

『宿命宮』は世界観こそRPGの古典、ウィザードリィに倣い、迷宮とそこに徘徊するモンスター、それらが隠し持つ財宝、戦士、魔法使い、盗賊といった能力を反映する職種といったモチーフに終始しているが、システム面から捉えればウィザードリィとは真逆のものである。

アンチとさえ言えるかもしれない。

Wizやドラクエといった名作により育まれ、脈々と受け継がれていたパラメータ操作型のターン制バトル。
今やRPGと言えばそれら数値型のバトルを主眼に置いたゲームとほぼ同義、ニアイコールである。
従来なら、そこで、別のシステムを、と望んでも、ターン制のパラメータ操作がリアルタイムアクションにすり替わってアクションRPGと呼ばれるものになるだけだった。

『宿命宮』は、それら現行RPGの潮流に対し、堂々とNOを唱えたのである。

“Dooms and Dungeons”の戦闘シーンを友人宅で初めて見たとき、僕はその異様さにただただ驚いた。

HPやMPが可視化されず、能力値がすべて隠しパラメータになっている。
のみならず、そもそもどのようなパラメータがあり、どのような計算式になっているかが皆目分からないのである。
バトルは手探りのまま始まり、僥倖と不運に揺さぶられながら終わる。

友人の操作する剣士が二体のリザードマンとの死闘の末、斑々と血の落ちたフロアの上で肩で息をしているのを見たとき、僕はRPGの新世代の到来をひしひしと感じていた。
あとは恋に落ちたようなものだ。僕は夜通し友人宅で『宿命宮』をプレイした。ちょうどイェソドの南廊、フロンティア発狂のイベントが起こったところで殺されてしまった。

得体が知れないながらも背中をあずけられる仲間であったフロンティアとの対決、そして敗北。『宿命宮』ではプレイヤーキャラの死は絶対である。ゲームがすすめば、水鏡、獏使いなどのアイテムを使って一時的なセーブによる状況の巻き戻しを図ることも可能にはなるが、それにしたって分身の死、予知による死の回避という体裁を取るのだ。

一夜の冒険が切り刻まれて無に帰ってゆくのを僕は呆然と見ていた。徹夜明けで僕の心はひどくバランスを崩しやすくなっていた。いともあっさりローレンシア(僕のプレイヤーキャラだ)の無念を思って泣いた。7時間のプレイ時間を7年の月日のようにも感じていた。

タイトル画面が表示されたが、僕は無残な死の余韻に浸っていた。外を見れば空は夜明け前の闇を含んだ蒼だった。始電がでていることを思い出し、僕は秋葉原へと向かった。無論、『宿命宮』を買いに。ソフマップに開店前から並んで、『宿命宮』を買った。クリスマス前だった。店員から『プレゼント用ですか?』と聞かれた僕は何故か『はい』と返事してしまい、訂正するのも気がひけて見守っていると、『宿命宮』は迷宮の壁の色模様にも似た包装紙にくるまれ、深紅のリボンがかけられた。それはこの傑作に妙に似つかわしい姿だった。
僕はそのプレゼントを帰り道ずっと胸に抱いてた。
自宅に帰るとシャワーを浴びて一眠りした。布団に入るとすぐに意識がとんだ。夢を見た。
宿命宮の夢だった。
悲しいけれどひどく晴れやかな気持ちで目が覚めた。夢の内容はすでにあらかた忘れかけていたけれど。
周りを見回すと枕もとに贈答用に包装された『宿命宮』が転がっていた。迷宮の壁を剥いでそこに置いたみたいだった。あたかも、それが夢が夢じゃなかったと主張しているように。

あとは言うまでもない。

至福の日々だ。

“Dooms and Dungeons”の発売から7年。多くのことがあった。
大学を中退して出版社に入り、長年の夢だった『ゲーメスト通信』所属のライターになった。
おそるおそるしたためたゲーム評だったが、意外にも読者には好評だった。これがきっかけで季刊の『ゲメ通ポータブル』の編集長を任されるという思わぬ出世もした。無理ではないかと諦めていた結婚もしたし、子供できた。
忙しくなくなり、身軽さを失った。
仕事の一環としてゲームを見る向きが強くなり、一プレイヤーだった頃の童心を忘れがちになった。

そんな折の”Three Century of Gravities”発売である。
正直に言おう。昔はいざしらず今の自分がゲームにハマれるはずがないとたかをくくっていた。

”Three Century of Gravities”のデモ画面のスクリーンショットがプレスに流れ始め、ゲームショーでのテストプレイの素晴らしさが周囲で囁かれ始めても、自分には関係のないことだと思っていた。むしろ、このカルト作の続編発売に対する周囲の熱狂は僕の熱を冷まし、僕を、前作への郷愁と、郷愁が往々にしてもたらす現世への興味への喪失に浸らせていたようである。

僕が愛したのはあくまで”Dooms and Dungeons”であり、”Three Century of Gravities”ではない。

そんな傲慢な気持ちにさえなっていた。

バカ。

レビューを書かねばとゲームを始めてものの数分。僕は7年前の冬の夜に戻っていた。

違うと言えば全く違う作品である。意図して対比させた部分もあるのだろう。

”Dooms and Dungeons”はリアルに息づいた迷宮内で冒険が繰り広げられる。”Three Century of Gravities”は雄大で解放感に溢れてはいるものの、どこか現実感を喪失した大自然を舞台にしている。

”Dooms and Dungeons”が、基本的に仲間はいても、主人公との関わりのなかでしか捉えられないのに対し、“Three Century of Gravities”は群像劇に近い要素を帯びている。

”Dooms and Dungeons”が戦略をこと細かに練れたのに対し“Three Century of Gravities”は戦闘に際したおおまかなスタンスを選べるだけである。

様々な面で大幅な変更があるにも関わらず、土台は全く同じ印象を受ける。
確かに繋がっている。

正当な、純血の、志を継いだ後嗣。

暴力的とさえ言える進化欲。

プレイヤーと現実とゲームの三者を堅固に結びつけ、一つの回路を形成しようとする試み。

”Dooms and Dungeons”が自分にとって最愛の者に例えられるなら、”Three Century of Gravities”はまさしくその間にできた娘である。

日々老いてゆく僕に、進化を重ね飛翔を重ねる”Three Century of Gravities”はまぶしく映る。
僕には三才になる娘がいるけれど、彼女らはとても似ている。
若く、瑞々しく、前途洋洋である。

彼女らはかつて僕らがいたところを丁寧になぞることもある。

しかし、いつか僕らが辿りつけなかった地平にたどりついてくれるだろう。

全ての”Three Century of Gravities”プレイヤーをことほぎながら、ゲメ通編集部から謹んでこの書を献上させていただく。

  2017年4月11日  ローレンシア大塚





≪寄稿イラスト≫

頁左『伽藍の森』

絵師/冬月皓子

イラストレーター、絵本作家。『エクス・マキーナ』シリーズキャラクターデザイン、絵本『かげかあさん』など

コメント:
一世紀編の終わりになんの気なしに播いた種は二世紀の途中で巨木の立ち並ぶジャングルに。ゲームをやっていて『わぁっ』とため息を漏らしたのは初めてです。



頁右上『ハートブレイクヒル』

絵師/プレイア

漫画家。『週刊少年ジャプン』上で『カバディマスター富樫』を連載中。

コメント:
覚悟と漢気と殺意がみっちり詰まっている三世紀が時代的には一番好きですね。



頁右下『パラダイス』

絵師/蛭蛹蛆

イラストレーター。画集『月窒身寸米青』(ゲツチツシンスンマイセイ)など。

コメント:

パラダイス。逆さに読むとスイダラパ。
フリーダムなキャラが多いゲームですが、最初ビクンビクン途中クパッしばらくしたらゲル化して最後にオギャーってなる抜きんでたフリーダムっぷりに心奪われました。やつは大変なものを盗んでいきました。あなたのいのちです。仲間内でのあだ名は『副乳』。





≪『重力の三世紀』に影響を与えた作品たち≫

"Three Centuries of Gravity" (Geyser)
ゲームタイトルはブリティッシュロックの大御所、ジェイサーの”Three Centuries of Gravity”より。薬袋プロデューサーがこの曲を聴いていたときに骨子となるアイデアが湧いてきたとインタビューで答えている。
著作権の関係から、Centuriesが単数に、Gravityが複数形になっている。
"Three Centuries of Gravity"自体もノーベル賞作家、トマス・ピンチョンの『重力の虹』に影響されたものである。

『魔法戦士ミルキーフラッシュ』
同名アダルトゲームをアニメ化したすがすがしいまでに露骨に扇情的な美少女アニメ。
パラダイスが泳いでいるときの水着(?)の元ネタである。

『ア・ビット・ライフ』
2009年にアーキテクトから発売されたライフゲーム。
伽藍の森はア・ビット・ライフ植物版の趣があり、デザイン担当の小倉氏とプログラム担当の織部氏はこのゲームの熱烈なファン。


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